非行歴と補導歴の違いとは|非行歴と補導歴の違いを弁護士が解説
「若気の至り」という言葉があります。若さがゆえに,分別のない行動をしてしまうことを言います。皆さんも多かれ少なれ,それが犯罪に当たるかどうかはともかく,若かりし頃に今考えれば間違っていたと思うような言動に出てしまったことがあるのではないでしょうか。
未成年が犯罪に当たり得る行為や犯罪に繋がる可能性のある行動をして警察に発覚した場合,非行歴や補導歴として警察の保管する記録に残る可能性があります。
そのような記録が残った場合,将来にどのように影響があるのか,過去に身に覚えのある方や,大切なお子さんに非行歴・補導歴がついてしまったご両親の中には不安な方も多いのではないでしょうか。
このページでは,非行と補導の違い,それぞれの記録である非行歴と補導歴とは何なのか,将来にどのような影響があるのかについて弁護士・坂本一誠が解説いたします。
非行とは?
「非行」とは少年(20歳未満の男女)が犯した犯罪のことです。例えば,少年が殺人を犯した場合,それを犯罪ではなく非行と呼びます。
非行を犯した少年や,犯罪に至らないとしても将来そのおそれのある少年については,刑事訴訟法で定められる20歳以上の成人の刑事手続とは別に,少年法が少年事件の手続を定めています。
その理由には,少年はまだ若く,大人と比べると可塑性があるという考え方があります。可塑性という言葉は,もともとは物体に力を加えて形を変えた時に,力を取り除いても変形がそのままになる性質のことをいい,少年が若さゆえに様々なことを学んで成長して変わることができる,つまり更生することができるという考え方がされています。
そのため,少年法1条は,法律の目的として「少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする」と定めています。少年の可塑性に着目して,非行を行った少年について成人とは異なる手続を定めているのです。
非行少年とは?
非行少年とは,少年法3条1項に定められている,審判に付すべきとされる少年のことです。
この「非行少年」は少年法の中で下記3つに分類されています。
1. 罪を犯した少年(犯罪少年)
2. 刑罰法令に触れる行為をした十四歳未満の者(触法少年)
3. 次のイ~ニの理由があって,性格や環境に照らして将来罪を犯すまたは刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年(虞犯少年)
イ 保護者の正当な監督に服しない性癖がある
ロ 正当な理由が無く家庭に寄り付かない
ハ 犯罪性のある人か不道徳な人と交際又はいかがわしい場所に出入りする
ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖がある
1号と2号が14歳未満か否かで区別されているのは,刑法41条が「14歳に満たない者の行為は,罰しない」と定めて14歳未満の人の責任能力を一律に否定しているためです。2号に該当する少年は,「法には触れているけれども責任能力がなく犯罪が成立しない」という趣旨で,1号の犯罪少年と区別して「触法少年」と言われます。
また,20歳以上の成人であれば,犯罪を犯したことが疑われない限り,逮捕・起訴されることはありませんし,犯罪を犯したと証明するに足りる十分な証拠がなければ処罰することもできず,罪を犯すおそれがあるからといって何らかの不利益を与えることは許されません。
もっとも20歳未満の少年については,少年法の目的が少年の健全な育成等にあることから,将来罪を犯すまたは刑罰法令に触れる行為をする虞のある一定の少年について,実際に罪を犯した場合でなくても少年審判に付することができるとされています。
補導とは?
補導とは非行(未成年者の犯罪)の防止のための警察活動の総称のことです。駅や繁華街など犯罪が起こりやすいような場所で,必要に応じてその場で行われる街頭補導と,犯罪を未然に防ぐために対象者が改善するまで指導を続ける継続補導があります。街頭補導の対象は「非行少年」と「不良行為少年」です。
「非行少年」は先程述べた通り審判に付すべき少年のことであり,「不良行為少年」とは飲酒や喫煙,深夜徘徊その他自己又は他人の徳性を害する行為(不良行為)をしている未成年者のことです。
補導対象の具体例は飲酒や喫煙,薬物乱用,粗暴行為,金品持ち出し,暴走行為,家出…等,計17個発表されています。警察は補導の際に未成年者に注意をし,場合によっては保護者に連絡をします。継続補導の対象は少年相談や街頭補導に関わった未成年者です。
非行歴と補導歴の違い
非行歴とは非行少年として検挙または補導された履歴のことです。
補導歴とは補導された履歴のことですが,各少年の補導歴を厳密に定義すると,補導歴から非行歴を除いたものを言います。この補導歴は成人すると破棄されます。これらのことから非行歴と補導歴は若干違うことがわかります。
非行と補導の場合の手続の違い
非行の場合
非行が起きて警察がこれを認知した場合,先ずは20歳以上の成人と同様に,警察が捜査を始めて証拠を収集し,少年本人から任意の取調べを行うか,少年を逮捕します。
逮捕されると,48時間以内に少年は検察庁に送致されます。24時間以内に,検察官は裁判所に10日の勾留を請求するかどうかを決定します。検察官が勾留を請求すると裁判所が勾留の可否を決定します。一度勾留されると,検察官は更に10日間の勾留の延長を請求することができ,勾留の最終日までに家庭裁判所へ少年を送致するか,釈放しなければいけません。
逮捕されずに任意の取調べが続くいわゆる在宅の状態で捜査が進んだとしても,警察は原則として事件を検察官に送致し,検察官が非行事実の嫌疑が不十分であると判断しない限り事件を家庭裁判所に送致します。
家庭裁判所は,犯罪少年のうち,死刑,懲役又は禁錮に当たる罪の事件について,調査の結果,その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは,検察官送致決定をします。その他の犯罪少年,触法少年,虞犯少年に対する処分には,都道府県又は児童相談所長送致(18歳未満に限る),保護処分(保護観察,児童自立支援施設又は児童養護施設送致,少年院送致)があります。
補導の場合
一方,非行ではなく補導の場合には,未成年に注意し,必要な場合に保護者に連絡をするに過ぎません。対象者の行動の改善まで指導を継続する継続補導の場合でも,少年事件手続が開始されるわけでもありません。そのため,非行と補導ではその後の手続に大きな違いがあるといえます。
非行歴と補導歴の影響について
非行歴は前歴(逮捕された履歴)として警察の保有する記録に残るので,就職活動等で影響等が出ることも考えられます。
もっとも,通常の一般企業が前歴について知り得る手段は原則としてございません。前歴を告げずに企業に入社したとしても発覚可能性は極めて低いと考えられますが,前歴を隠して入社したことが後に何らかの理由により発覚した場合,損害賠償請求や解雇などの紛争に発展するリスクが残ります。
また,非行歴は,少年が少年のうちに再度非行に及んだ場合の保護処分の決定や,成人になって刑事事件に及んだ場合の刑事処分の決定に当たって考慮されることになります。
補導歴は該当少年の審判の際に過去の資料として参考にしたり,補導の際に調べられた補導歴によって警察による対処が変わったりする等の影響がありますが,先に述べたとおり,補導歴は成人後に破棄されます。成人になって刑事事件を犯した際に,刑事処分の決定に補導歴が考慮されることはまずありません。
まとめ
以上,説明してきたように,非行によって警察の捜査が開始する場合と,単なる補導で終わる場合には,その後の手続が全く異なり,非行歴と補導歴の将来にわたる影響にも大きな違いがあります。
過去の非行歴・補導歴の影響が不安な方や,大切なお子さんが少年事件を起こして非行歴が付く可能性があることに不安を覚えている親御さんは,ただちに弁護士に相談することをおすすめします。