少年事件における弁護士(付添人)の活動を弁護士が解説
少年事件で逮捕された際の身体拘束の流れ
少年事件であっても,成人事件と同様,捜査段階では基本的に刑事訴訟法が適用されます(40条)。犯罪少年の事件では,成人と同様,捜査機関が捜査することになり,在宅捜査ではなく身柄を拘束されて捜査を受ける場合,少年は被疑者として逮捕・勾留されることになります。
少年法では,勾留に際して,成人の場合とは異なる規定が設けられており,「検察官は,少年の被疑事件においては,やむを得ない場合でなければ,裁判官に対して,勾留を請求することはできず(43条3項),裁判官においても,勾留状は,やむを得ない場合でなければ,少年に対して,これを発することはできない(48条1項)」と規定されています。法律の文言上は,勾留が例外的であるかのようにも読めますが,実際には成人の被疑者と同様に検察官が勾留を請求すると認められるケースが多いと言わざるを得ません。
勾留場所について,少年鑑別所とすることができるとされていますが(同条2項),成人と同様に警察署の留置施設において勾留されることが殆どです。もっとも,少年を警察留置施設で勾留する場合でも,成人とは分離しなければならない(49条3項)とされています。
刑事事件を起こした少年が逮捕されるか否かは,事案の重さなどの事情によります。事件の内容が軽微である場合には,逮捕されずに捜査を行い,あるいは,逮捕後に勾留されずにそのまますぐに家庭裁判所へ送致されます。この場合,逮捕後48時間以内に家裁送致となります。
一方,事件の内容が重大であり,罪証隠滅や逃亡を防ぎつつ,捜査にある程度時間を要する場合には,少年は逮捕後に48時間以内に検察庁に送られ(検察庁送致),検察官が「勾留」という身柄拘束の延長措置を24時間以内に裁判官に請求し,裁判官の判断により勾留されるか釈放されるかが決定します(当初は10日間,延長されると最長20日間)。勾留満期には事件は家庭裁判所に送致されます。
ですから,身柄の拘束やその延長を避けるためには,逮捕後の48時間+24時間の72時間が少年の身柄を解放するために非常に重要な時期となります。この間に弁護士を依頼し,不必要な長期の拘束を避ける必要があるのです。勾留が決定された後では,早期釈放は難しく,また,身柄拘束されたまま家裁送致となると,その後,観護措置がとられて少年鑑別所に収容される可能性が非常に高くなってしまいます。観護措置は通常4週間の収容を伴いますので(最長8週間),身柄の拘束は非常に長くなります。
少年事件手続の重要なポイント
上記のように,少年が刑事事件で逮捕されるとまずは成人と同様に刑事訴訟法が適用されます(少年法40条)。
しかしその後は,少年事件特有の経過をたどることになるので,通常の刑事事件だけでなく少年事件手続を熟知した弁護士に依頼することが大切です。
1. 全件送致主義
少年事件の場合,捜査機関が捜査を行い,犯罪の嫌疑があると判断したときは,全ての事件が家庭裁判所に送致されることになります(少年法41条,42条)。したがって,成人の刑事事件のように,犯罪が成立することは争わないけども被害者の方と示談をするなどして被害感情を緩和し,起訴猶予を理由とする不起訴処分を狙うという弁護活動は想定することができません。
一方で,少年事件といえども,少年本人が身に覚えのない罪で逮捕されたり,捜査を受けて刑事手続に乗せられてしまうことがあります。その場合には,弁護士が少年から言い分をよく聞いて,捜査機関の取調べに対する適切な対応を助言したり,独自に証拠を収集したり,検察官に対して意見書を提出したりするなどして,犯罪の嫌疑が不十分であることを検察官に訴えることで,嫌疑不十分を理由して家庭裁判所への送致を食い止めることができることがあります。
もっとも,家庭裁判所へ送致される前に,犯罪が成立することが証拠上明らかであるにもかかわらず少年が不合理な弁解をして争う主張を見せたことが,家庭裁判所における少年審判で不利益に取り扱われる可能性もあります。したがって,少年事件においては,家庭裁判所へ送致された場合の手続きも見据えて方針を選択することが重要になってきます。
一部の重大事件の場合,家庭裁判所は,検察官から送致されてきた事件を,再び検察官に送致して,少年審判ではなく一般的な刑事裁判の手続に付することができ,これを「逆送」と呼びます。逆送された少年は,少年審判ではなく,成人と同じように刑事裁判を受けることになります。
これまで,16歳以上の少年のときに犯した故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件(殺人罪や傷害致死罪)が原則として逆走される対象でした。しかしながら令和4年4月1日に施行された改正少年法により,18歳および19歳の少年(特定少年)の事件については,原則として逆送される事件の範囲が拡大され,18歳以上の少年のとき犯した死刑,無期又は短期1年以上の懲役・禁固に当たる罪の事件(強制性交等罪や強盗罪など)が原則逆送対象事件の範囲になりましたので,注意が必要です。
2. 付添人の選任
少年事件では,弁護士は,弁護人ではなく,付添人として活動することになります(少年法10条1項)。捜査段階から私選弁護人をつけることもできますが,貧困などの自由により弁護士を選任できない場合には成人の刑事事件と同様,少年事件にも被疑者段階であれば,被疑者国選弁護人を利用することが可能です。
ただし,家庭裁判所に送致されると,被疑者国選弁護人の任務は終了となってしまい,法定刑が死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役又は禁固に当たる罪で観護措置による身体拘束を受けている場合には,裁判所が裁量的に国選付添人を付けることができるに過ぎません。この基準により,国選付添人が付けられることなく少年審判に臨まざるを得ない少年がおり,この場合には私選付添人を選任することが大切です。
家庭裁判所における審判で少年に有利な処分を獲得するためには,弁護士が少年から事件の詳しく事情を聴取し,犯罪の成立を争わない場合には,弁護士の接見を通じて非行の要因について少年に考えてもらい,時には差し入れた書籍や資料を読んでもらったり,日記を書いてもらったりするなどして少年の考えを深め,家庭裁判所での調査官による調査や審判に備えることが非常に大切です。
そのため,家庭裁判所へ送致される前の警察・検察段階から少年事件に強い弁護人を選任し,家庭裁判所への送致後まで一貫した弁護活動を行ってもらい,少年と弁護士との間で信頼関係を築きながら目標とする処分に向けて活動を進めることが重要になってきます。
3. 家庭裁判所調査官の調査
事件が家庭裁判所へ送致されると,家庭裁判所の調査官が調査を開始します。調査官は,事件記録の検討や,少年・両親との面談を通して,少年の気質や人格の特徴,両親との関係性,少年の生活環境などを調査し,少年の非行要因を特定して更生のためにどのような保護処分(最終的な処分)が適切かについて裁判官に意見を伝える役割を有しています。重大な事案で,少年を社会に戻しても更生が困難と評価されれば,調査官は少年を少年院へ送致することが適当である旨の意見を述べることになります。
一方,少年が自分の問題点を自覚して反省の姿勢を見せており,両親も少年の非行の背景を十分に理解して再非行を防止するための環境が整備されているような場合には,少年を社会に戻す処遇が適当である旨の意見を述べてくれることもあります。
裁判官は法律家という一種の専門家ですが,子どもの心理や教育については調査官が高い専門性を有しているため,家庭裁判所で処分を決定するに当たっては調査官の意見が強い影響力を持っています。そのため,少年事件手続で有利な処分を獲得するためには,調査官や少年や両親に対して行う調査にどのように望むかが非常に重要です。
そのためには,家庭裁判所へ送致される前の早い段階から,少年,両親,弁護人が一体となって情報を共有し,少年は自分の非行要因の理解や犯罪の重大性の認識を深め,再犯防止策についても考えることが必要です。
また,調査官は,少年の両親についても調査を行います。今回少年が非行に及んでしまった理由を理解できているか,少年と十分事件について話ができているか,今回の事件を踏まえて今後親としてどのような対策をとろうと考えているか,親と少年との関係性は良好か,といった点が調査されます。少年が十分反省していても,親の態度がよくない場合には,少年を社会=家庭に戻すことは困難と判断されて少年院送致になってしまう可能性もありますので,調査に先立って,少年の親も十分準備することが大切です。
一たび少年が逮捕されると,少年自身はまだ若年のため大きく動揺し,大切な子どもが突然逮捕され両親も強いショックを受けていることは珍しくありません。そのような状況で,家庭裁判所での調査を見据えて非行と向き合い,考えを深めていくために,付添人が少年と両親の両方とコミュニケーションを図る重要な役割を果たすことになります。
4. 少年審判
少年事件の場合,家庭裁判所送致後は,家庭裁判所調査官の調査を受けた後,刑事裁判ではなく少年審判を受け,刑罰ではなく保護処分を受けることになります(逆送事件は除きます。また軽微な事件であれば審判不開始として審判を開かずに手続を終えることもあります)。
保護処分は,保護観察,少年院送致,児童自立支援施設等送致の3種類があります(少年法24条1項)。審判の結果,保護処分の必要性がないと判断されれば,不処分(少年法23条2項)となることもあり,また,それ以前に調査の段階で審判を行う必要がないと判断されれば,審判不開始(少年法19条1項)の決定をする場合もあります。
少年の性格や環境等によっては直ちに少年に対する処分を決めることができない場合には,少年に対する最終的な処分を決めるために,少年を一定の期間,家庭裁判所調査官の試験観察に付すことがあります(少年法25条1項)。
なお,少年が冤罪であると主張して非行事実を争っている場合には,まず,少年が本当に非行に及んだのかを決定する手続が行われ,その後,最終的な審判が開かれます。
少年審判手続の特色は後述しますが,成人の刑事裁判とは異なる点が多々ありますので,少年事件の経験が豊富な弁護士の助言を受けながら,審判の準備をする必要があります。
5. 抗告
保護処分決定に不服がある場合は,刑事裁判での上訴と同じように,少年審判でも不服申立手段があり,これを「抗告」と呼びます(少年法32条)。
抗告は,決定に影響を及ぼす法令違反,重大な事実の誤認又は処分の著しい不当を理由とするときに限り,することができます。つまり,家庭裁判所の審判の手続が法律に違反するものであったり,非行事実が誤って認定されていたり,決定された処分が著しく重過ぎたりすることが理由とされます。
このような場合に,決定の告知を受けた日から2週間以内に抗告することができます。抗告審は高等裁判所で行われますが(裁判所法16条2号),抗告をするには,抗告の趣意を簡潔に記載した申立書を原裁判所である家庭裁判所に提出します(少年審判規則43条)。
成人の刑事裁判との大きな違いは,当初の裁判から2週間以内に,裁判に対する不服の具体的な内容を申立書に記載しなければいけないということです。成人の裁判であれば,第1審の判決の後,2週間以内に控訴申立書を提出すれば,元の判決に対する不服の詳細は,後に指定される提出期限までに控訴趣意書に記載すれば良いことになっています。
しかしながら少年事件の場合には,当初の決定から2週間以内に抗告の趣意を具体的に記載した抗告申立書を提出しなければならず,その後に更なる書面の提出の期間はありません。抗告を行うに当たってはこのことを意識し,速やかに申立書を準備する必要があります。
少年審判の流れ
少年事件での家庭裁判所裁判官による審判及び処分決定
家庭裁判所の裁判官は,調査官の作成した資料などをもとに送致されてきた少年に最適な保護処分の検討を行い,必要と認められる場合に審判を開き,最終的な判断を下します。
審判は1回のみで終わることもありますが,場合によっては中間審判というかたちにして1回の審判で結論を伝えず,2回目の審判まで本人あるいは保護者などの行状を見極める期間が設けられることがあります。
なお,審判に至るまでの過程(調査段階)で少年本人が十分に反省していると認められたり,そもそも犯罪の事実がないと判明した場合などには,審判を行う必要がないという判断(審判不開始決定)が下されます。弁護士は,付添人として審判に立ち会います。裁判官,書記官,調査官,付添人,少年,少年の保護者が審判に出席します。
ただ,家庭裁判所が求めれば,保護観察官,保護司,少年鑑別所の法務技官及び教官も出席することができますし,裁判長の許可があれば,保護者以外の少年の親族や少年の学校の教員なども出席することができます。
審判手続の進行
審判手続の進行は,一般的には,裁判長において審判の開始を宣言した上,次の順序,内容で行われています。
- ①人定質問
- ②黙秘権の告知
- ③審判に付すべき事由の要旨の告知並びに少年及び付添人の陳述の聴取
- ④非行事実の審理
- ⑤少年の生活環境等の要保護性に関する事実の審理
- ⑥最終的な処分決定の告知
- ⑦決定の趣旨の説明および抗告できることの告知
上記④,⑤では,一般的に裁判官が少年に対して質問する形で審理が進んで行きます。少年審判は,前述のとおり,少年が手続の内容をよく理解できるように,懇切を旨として行い,和やかな雰囲気の中で,少年や保護者等に信頼感を持たせるように行わなければならないとされていますから,刑事裁判に比べて,裁判官の少年に対する対応は柔らかいものとなります。
また,裁判官からの質問が終わった後には,付添人と調査官からも質問が行われることが多く,少年に対して指導的な言葉が投げられることも多々あります。少年審判は,少年の非行事実を裁く場という意味だけでなく,少年に対して教育する場としての意味も有するため,このような審理方法がとられているのです。
まず弁護人から被告人に質問をしていく成人の刑事裁判とは異なり,審判では原則として裁判官が少年に対して質問をしていきます。裁判官から両親に対しても質問があります。そのため,成人の裁判における弁護人からの尋問のように,事前に質問する内容を打ち合わせておくことができません。少年審判において通常想定される裁判官の質問を念頭において,どのような質問が来てもこちらの言い分や考えが伝わるように準備をする必要があります。少年審判の準備においても,少年事件の経験の豊富な付添人の力が非常に重要になります。
少年に対する保護処分
審判において主として示される判断内容はおおよそ下記の4種類です。
①不処分
家庭裁判所からは少年に対して何も課さないとするものです。
付添人や調査官からの働きかけや,審判における裁判官からの説諭などによって,少年とその保護者などが自力で事件からの立ち直りを果たせると判断された場合などに下される決定です。
②保護観察処分
主として在宅で少年の立ち直りを図る措置です。施設に収容するような強い制約を課さずとも更生の見込みが認められる場合に決定されます。
保護観察に付された少年は,定められた期間中に専門家(保護観察官)と地元の篤志家(保護司)による監督・指導を受けながら自己の改善を果たすことを求められます。経過が良好な場合は予定より早く保護観察が終了することもある一方,悪い場合には改めて少年院への収容が検討されることになります。
③少年院送致
事件が重大であり,少年を今の生活環境から一度離脱させて集中的な教育を施さなければ改善更生が難しい,と認められた場合に下される決定です。
なお,少年院は法務教官という専門職を主体とした指導が行われる教育施設であり,「刑務所」ではありません。
④検察官逆送
事件があまりに重大な場合に,少年が成人と同じ扱いを受けるべきと判断するものです。
この判断が下されると,少年は検察官のもとに送られ成人と同様の刑事手続に服することになります。この判断は調査段階(審判が行われる前)に行われる場合もあります。
上記のいずれの処分となるかは,上記のとおり調査官の意見の影響力が強いです。そのため,早い段階から調査官による調査の準備を行うとともに,付添人である弁護士が事件が家庭裁判所に送致された当初から,少年の非行要因とその要因が改善されつつあることについて意見書を家庭裁判所に提出し,少年と両親の更生への取り組みをアピールすることが審判における有利な保護処分の獲得に繋がっていきます。
少年事件に関わる専門家の中で,少年や両親ともっとも長い時間コミュニケーションを取ることができるのが付添人です。少年や両親の現状をよく把握している付添人だからこそ気が付くことができる事件の背景やポイント,少年や両親の特性などについて意見書で指摘することで,その後の調査官の調査に臨む姿勢や処分に対する意見に良い影響を与えられることがあります。
また,調査官の見立てに事実の誤認などの誤りがある場合には,適切な事実に基づいて,少年の非行性が減退していることや少年の生活環境が非行時よりも改善されていることなどを積極的に主張していくことになります。
まとめ
以上,見てきたように,少年事件における弁護士(付添人)の活動は,少年審判において有利な処分を獲得することと,少年の真の更生を目指すことの両面において,少年とその家族にとって非常に重要なものとなります。
そして家庭裁判所における有利な処分の獲得のためには,家庭裁判所へ事件が送致される前の警察・検察段階から,少年と家族が付添人と協力していくことが大切です。
大事なお子さんが逮捕されれば,誰でもどうして良いか分からず強い不安に襲われると思います。そんな時だからこそ,早めに弁護士に相談して今後の手続に備えることをお勧めします。