少年法と少年法改正を弁護士が解説|少年事件とは
少年の犯罪事件は,通常は成人と同様に被疑事件として警察,検察官により捜査され,家庭裁判所に送致されます。家庭裁判所では,保護処分と刑事処分のいずれが相当か判断し,保護処分やその他の保護的措置を相当とするときはその旨自ら裁判し,刑事処分を必要とするときには,事件を検察官に送致します(少年法(以下,特に断りがない限り「少年法」は省略)20条1項)。
なお,一定の重大事件の場合には,原則として,事件を検察官に送致しなければならないこととされています(20条2項,62条,63条)。そして,検察官は,家庭裁判所から送致を受けた事件について,刑事裁判所(地方裁判所又は簡易裁判所)に対して公訴を提起しなければならないことになっています(45条5号本文)。
今回は,少年法改正に至った経緯や改正のポイントを弁護士・中村勉が解説いたします。
少年法改正の経緯や改正点
令和4年4月1日から,「民法の一部を改正する法律」が施行され,成年年齢が18歳に引き下げられました。成年年齢の引き下げにより,これまでは未成年として扱われてきた18歳,19歳の方でも,父母の親権に服さなくなり,かつ,親の同意を得なくても民法上有効な契約を一人ですることができるようになりました。
少年法においても,令和3年5月21日に「少年法等の一部を改正する法律」が成立し,令和4年4月1日より施行されています。この法律の施行後も,20歳未満であれば少年法の適用を受けることに変わりはありません。
しかし,今回の少年法改正によって,18歳,19歳の者が罪を犯した場合には,「特定少年」として,17歳以下の「少年」とは異なった取り扱いを受けることになります。
少年法改正の経緯
少年法は1条において,「少年の健全な育成を期し,非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに,少年の刑事事件について特別の措置を講ずること」を目的としています。
少年法の対象である「少年」は,20歳未満の者を指していますが(少年法2条1項),従前より少年法の対象年齢を引き下げるべきではないかという議論がなされてきました。
例えば,19歳の少年と成人との違いはほとんどなく,成人と同じ刑罰とすべきではないか,少年法によって少年が保護されていることから,少年の犯罪抑止にはなっていないのではないか等の意見がありました。
また,以前より,成年年齢を引き下げるべきではないかという議論もなされてきました。平成19年5月に成立した「日本国憲法の改正手続に関する法律」において,「国民投票の投票権」を得る年齢が「満十八歳以上の者」と定められ(同法3条),続いて,平成27年6月には「公職選挙法等の一部を改正する法律」が成立し,選挙権を得る年齢が「満二十年」から「満十八年」に引き下げられることになりました(同法2条,地方自治法18条)。そして,令和4年4月1日から,「民法の一部を改正する法律」が施行され,成年年齢が18歳に引き下げられました。
こういった経緯や世の中の動きにより,18歳,19歳であっても,重要な権利や自由を認められた主体として,その立場に応じた取り扱いをするために,18歳,19歳の者を17歳以下の少年とは異なる「特定少年」として扱うことになりました。
なお,「特定少年」であっても,未だ成長途上にあり,適切な教育や処遇による更生が期待できることから,引き続き少年法が適用されることには変わりありません。
少年法の主な改正点
少年法の適用対象
少年法の改正後も,20歳未満の者が少年法の適用対象になることに変更はありません。
もっとも,改正後,20歳未満の者を意味する「少年」のうち,18歳・19歳の者を「特定少年」として,17歳未満の者とは異なる扱いがされるようになりました。
逆走される対象事件の拡大
警察や検察官が捜査を遂げた少年の被疑事件は,基本的に全件が家庭裁判所に送致され,家庭裁判所において保護処分,刑事処分が必要かどうかを判断されるようになっています。これを「全件送致主義」といいます。
そして,家庭裁判所において,刑事処分を相当と判断し,検察官へと事件を送致することを,「逆送」といいます。逆送され,刑事処分を受けることになると,
- 有罪となった場合に前科となる(少年事件の保護処分歴は前科には含まれません)
- 公開の法廷で裁判が行われる
- 実名報道がされる可能性がある
- 処分を決める際,少年の性格・特性・更生可能性を考慮できる度合いが小さくなる
- 長期間の懲役刑が言い渡される可能性がある
- 実刑判決が言い渡された場合,教育を受ける場所である少年院ではなく,少年刑務所に収容される
といった違いがありますので,一般的には逆送された方が少年にとってより不利益となることが多いといえます。
今回の改正では,特定少年について,この「逆送」の範囲が拡大されました。
少年法における逆送の規定は少年法20条の1項と2項にあります。
1項: 逆送の対象事件とその条件に関する規定
「家庭裁判所は、死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件について、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。」
2項: 一定の罪名の事件については,原則として逆送としなければならないことを示した規定(原則逆送規定)
「前項の規定にかかわらず、家庭裁判所は、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であつて、その罪を犯すとき十六歳以上の少年に係るものについては、同項の決定をしなければならない。ただし、調査の結果、犯行の動機及び態様、犯行後の情況、少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは、この限りでない。」
改正法により,特定少年については,逆送がされやすくなってしまいました。
まず,逆送の対象事件の制限がなくなりました。改正前は,「死刑,懲役又は禁錮に当たる罪の事件について」(少年法20条1項)という条件があったため,逆送の対象が一部の重大犯罪に限られていました。
これに対し,改正法においては,特定少年につき,「死刑,懲役又は禁錮に当たる罪の事件について」という逆送の対象事件の制限が撤廃されました(62条1項)。そのため,特定少年については,どのような事件であっても,逆送される可能性が生じることになり,付添人弁護士としては,逆送可能性を意識した付添人活動をする必要が生じています。
次に,原則逆送の対象となる罪名が拡大されました。
これまで,原則逆送の対象となる罪名は,「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件」に限られていました。そのため,対象は人が亡くなった事件(自動車事故などわざと死亡させたわけではない事件は除く)に限られていました。平成30年の1年間で,原則逆送事件に該当したのは15件にとどまっています(出典: 令和元年版犯罪白書第3編第2章第2節2,3-2-2-4図 原則逆送事件 家庭裁判所終局処理人員の推移(処理区分別))。
しかし,特定少年については,それに加え,「死刑又は無期懲役若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件であつて,その罪を犯すとき特定少年に係るもの」が原則逆送事件の対象として追加されています。そのため,様々な罪名の事件が対象となりますが,その中で特に少年事件として弁護士がよく遭遇するのが,強制性交等罪や強盗罪です。これらの事件についても,罪を犯したときに18歳以上であれば,原則として逆送となってしまいます。例えば,コンビニで万引きをしたところ店員に見つかって取り押さえられそうになったが,暴行を加えて逃げたといったケースも強盗罪になり得ます。
原則対象事件であっても,例外として,「犯行の動機,態様及び結果,犯行後の情況,特定少年の性格,年齢,行状及び環境その他の事情を考慮し,刑事処分以外の措置を相当と認めるとき」はこの限りではありません。
しかし,原則として逆送と法律が規定しているのですから,この例外規定をもとに逆送を回避するためのハードルは高いといえます。付添人としては,被害者との示談,行為が悪質とはいえないとの主張,少年の性格等の未熟さの主張等を家庭裁判所に対して働きかけていくことが必要になります。
虞犯少年の規定の適用を除外
現行の少年法では,罪を犯した少年のみならず,保護者の監督に服しなかったり,日常の不良行為,不良交際等から将来罪を犯すおそれのあると考えられる少年の中で虞犯事由(少年法第3条1項3号イないしニ)に該当する者を「虞犯少年」として,後見的見地から,家庭裁判所の審判の対象としています。
改正法においては,18・19歳の「特定少年」については,上記虞犯少年の規定は適用しないとされました(改正法65条1項)。これは,少年審判となる対象から外れるという点では少年にとって有利に思われるかもしれませんが,更生に向けた少年の保護の機会を減少させることになってしまったとの見方もできます。今回の改正によって,少年として保護する範囲を狭め,成人の場合の扱いにより近づけて扱う方針へ転換したものといえるでしょう。
今後,これまで虞犯少年として扱われてきた少年に対しては,行政や民間団体による支援活動の強化が必要になると考えられます。
実名・推知報道の解禁
改正前においては,「家庭裁判所の審判に付された少年」や「少年のとき犯した罪により公訴提起された者」の実名,顔写真,年齢,職業,住居など,その者であることを推知ないし特定される情報を含む記事等の掲載は禁止されています(少年法第61条)。罪を犯した時点で「少年」である限り,成人になった後にその件で刑事裁判を受けることになった場合でも,実名・推知報道はされないこととなっています。
しかし,改正法においては,「特定少年」のときに犯した罪について,逆送されて起訴された場合には,上記報道規制は適用されないこととなりました(改正法68条)。これにより,成人と同様,実名や顔写真などが報道されてしまう可能性があります。これは,既に18歳を迎え責任のある立場になった特定少年については,社会的な批判や論評の対象とするのが適当であると考えられたことによるものです。
既に,特定少年の実名報道は始まっています。甲府地方検察庁は,2021年10月,重大事案で地域社会に与える影響が深刻であることを理由に,甲府市でおきた,殺人・殺人未遂,現住建造物等放火,住居侵入の罪で起訴された19歳男性の氏名を公表しました。この実名公表は改正少年法施行となった後,初めてのことです。
これを受けて,様々な都道府県の弁護士会が,少年の実名・推知報道は,少年の健全育成,更生や社会復帰を阻害するとの声明を発表しています。
また,これまで,少年に対する実名報道はされていなかったことから,検察庁から氏名が公表されてからも,実名報道については各新聞社,マスコミの中でも対応が分かれているようです。
少年の実名報道については未だ慎重な取り扱いがされているといえるでしょう。
保護処分に関する特例
少年法において処分の種類(保護観察・少年院送致・不処分)を決める際には,再び非行に陥る危険性があるかどうかが重視されます。そのため,少年のこれまでの成育歴や家庭環境,反省状況や更生のための活動等様々な事情が考慮されるようになっています。重大事件の場合,成人の裁判であれば,やったことが重大だからということで,長期間の実刑になりますが,少年の場合は,やったことの大きさだけで処分の種類が決まるわけではなく,少年の性格や,内省の度合い,家庭環境(両親の監督能力)等少年が再び犯罪をしないための環境が整っているかなどを総合的に考慮して,処分が決まってきました。成人であれば長期間の実刑になるような罪名の事件でも,少年事件では保護観察になることもあります。
これに対し,改正法においては,少年が特定少年である場合には,「犯情の軽重を考慮して」当該少年に付する保護処分を決定すると明記されることになりました(改正法64条)。犯情とは,犯罪の経緯に関する事情のことで,犯情の軽重とはやった犯罪の重さと言い変えることができます。特定少年については,成人と同じようにやったことの重さを重視して処分の内容を決めようということです。
したがって, 重大事件を犯した特定少年については,改正前は種々の事情等を考慮し,社会内での更生を期待して保護観察処分に付するなど柔軟な対応を行ってきた事件においても,少年院送致の処分がされてしまう場合が出てくることになります。
不定期刑の適用を除外
改正前においては,検察官逆送後に刑事裁判となった場合に,少年に対して有期の懲役または禁錮の刑を言い渡すときには,処断すべき刑の範囲内における,「懲役〇年以上〇年以下」という不定期刑が言い渡されることになっています(少年法第52条1項前段)。
一方,成人の刑事裁判において刑の言渡しがされる時には,「懲役〇年」という明確な期間が示されるようになっています。しかし,少年の場合には,適切な教育や環境の変化における影響を受けやすく,刑を受ける中での,改善・更生が大きく期待されることから,その刑の執行中における改善・更生の度合いによって柔軟に社会復帰を可能とする趣旨であると考えられます。また,長期は15年,短期は10年を超えることはできないこととなっています(少年法第52条1項後段)。
もっとも,改正法においては,特定少年については,上記不定期刑に関する規定等は適用しないこととされています(改正法67条)。したがって,特定少年は刑事裁判においては成人と同じ扱いがされることになります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。18歳,19歳の者は少年法改正後もなお少年法の適用を受けることとなりましたが,やはりどちらかというと成人の場合の扱いに近付けた扱いがされるための改正内容となっています。18歳や19歳のお子様が犯罪を犯してしまった,あるいは犯罪に巻き込まれてしまったというような場合には,少年法の適用をまだ受けると言って安堵せず,お早めに刑事事件に強い弁護士にご相談ください。