少年事件における示談の意味
「我が子が少年事件を起こしたが,示談する必要はあるのか」「示談は自分たちで進めれば良いのではないか」といった質問を受けることがよくあります。
少年事件においては,示談交渉を試みることは必要なのでしょうか,それとも不要なのでしょうか。
今回は,少年事件における示談の重要性について解説します。
示談とは
「示談」とは,裁判沙汰などにはせずに,当事者の合意によって紛争を終結することをいいます。
成年事件における示談では,一般的には,示談金を支払う条件に,宥恕文言と清算条項とを盛り込むケースが多いです。
宥恕文言とは,被害届や告訴の取下を約すなどにより,刑事上の処分や処罰を望まないことをいいます。示談金とは,被害者からの民事上の損害賠償権に応じた金銭の授受の意味があります。清算条項とは,民事上の権利義務関係がこの他にないことを確認するなどの文言をいいます。
示談の効果とは
示談の効果は,成年事件の場合には,刑事上と民事上の2つの意味があります。
刑事上の効果としては,検察官が不起訴処分を決定したり,刑事裁判において執行猶予や減刑を獲得することができるなどの,より軽い処分や量刑の獲得を目指すことができます。民事上の効果としては,被害者からの損害賠償請求の訴訟提起を回避することができます。
成年事件と少年事件の違い
これに対し,少年事件は全件送致主義が採用されており,検察官は原則として少年事件の全てを家庭裁判所へ送致します。そのため,検察官がその処分を決めることは通常ありません。
また,少年事件とは,家庭裁判所による審判手続に付され,家庭裁判所が少年になす処分は保護処分であり,これは刑事裁判による刑事処分ではありません。
したがって,少年事件において被害者の方と示談をしても保護処分となる可能性はあります。成年事件のように不起訴や刑の減軽が望めるとは限らないのです。
少年事件では示談の意味はないのか
では,少年事件では示談交渉をしても意味がないのでしょうか。確かに,成年事件と比較すればその効果は薄いともいえます。しかし,意味が無いというわけでは決してありません。その理由は,少年法の目的と示談の重要性にあります。
また,少年法改正によって「特定少年」については示談が大きな意味を持つようになってきました。
改正少年法64条は,「審判を開始した事件につき、少年が特定少年である場合には、犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内において、決定をもつて、次の各号に掲げる保護処分のいずれかをしなければならない。」と規定しています。
「犯情の軽重」とは,簡単にいうと「やったことの重さ」という意味です。示談をすると,事後的に被害が一部回復することになります。例えば,詐欺をして10万円をだまし取った場合に,示談をして10万円を支払っても,10万円をだまし取ったという事実がなかったことになるわけではありませんが,示談による被害回復は,犯情に準じるものとして,「犯情の軽重」を考える際に考慮されると一般には理解されています。
そのため,特定少年に対する処分の種類を決めるにあたっては,示談の有無が大きな要素となります。
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少年法の目的と示談の重要性
少年法の精神は,少年の更生を考える保護主義思想(少年法1条)です。
そして,少年事件の審判において重視されるのは,どの程度「性格の矯正」が可能か,「環境の調整」が整っているのか(少年法1条)といった再非行可能性にかかわる点です。
他方で,示談を試みる場合,示談を申し入れるための準備や交渉の過程において,被害者側と真摯・誠実に向き合うことが必要となります。
このように被害者側と真摯に向き合う際には,具体的には,「自分の行為のせいで被害者はどのような苦痛を受け続けているのか」「自分の大切な人が同じ事をされたらどう感じるか」など,被害者側の立場に立ち,その心情を慮るというプロセスが不可避となります。
これは,加害者となった少年にとり,更生を促す貴重な機会となると同時に,少年が被害者に対して真摯・誠実な謝罪の姿勢を示すことができれば,過去の自分の行為を悔い改めることができたとして,再非行の可能性の低下,ひいては,少年審判においても有利な事情,より軽い処分の獲得を目指すことができるといえます。
そのため,少年事件においても,加害者側は被害者側との示談をまずは試み,可能性があるのであれば示談の成立させることを目指すべきといえます。
少年事件で弁護士を付ける重要性とは
少年事件の中には,「被害者が少年の学校の後輩で連絡先を知っている」「被害者側とは家族ぐるみの付き合いだ」などの理由で,自分たちのみで被害者側に謝罪の意思を伝えることが可能なケースもあります。
ですが,このような直接の謝罪は果たして効果があるでしょうか。紛争解決の点から言えば,まずは弁護士に相談するのが最良といえます。
被害者やその家族からすれば,事件を起こした犯人とは「怖い」存在であり,謝罪をすぐにそのまま受け入れることは通常困難です。犯人の家族による謝罪も,被害者側からすれば,犯人の「仲間」と見えるのが通常なので,同様に困難でしょう。そのため,第三者の介入が必要不可欠となります。
とりわけ,少年事件では,少年の真摯な反省の内容を正確に伝達すること,しかし決して被害者側に失礼のないように臨機応援かつ真摯に対応する技術が必要となります。
したがって,少年事件での示談を検討する場合には,そのような知見や経験が豊富である少年事件の専門性の高い弁護士に相談することが望ましいといえます。
まとめ
以上,少年事件における示談の重要性について解説しました。
少年事件や示談について少しでもお悩みのことがあれば,早期に専門の弁護士へ相談することをおすすめいたします。